発達障害とは

脳の発達に特有の偏りがあることで、定型発達とは異なる様々な認知や行動の特性が現れてきます。
その特性のために、日常生活や学校、仕事などで本人や周囲が困っており、何らかの援助が必要な場合に「発達障害」と診断されます。
もともと小児の病気と思われてきましたが、近年は、大人になり学校生活や職場にうまく適応ができず発達障害の可能性を疑われ医療機関につながる、いわゆる「大人の発達障害」と呼ばれるケースが増えています。
発症の原因については特定されているわけではありませんが、先天的な脳機能障害が関与していると想定されており、育てかたの失敗や経験不足から生じるものではありません。

発達障害はその特性の違いによって、

自閉スペクトラム症(ASD)注意欠如・多動性障害(ADHD)および学習障害に分類されます。

どのタイプにおいても脳機能の一部に違いをみとめます。
認知機能とは、「記憶、注意、方略とプランニング、言語、思考、情動、遂行」などの機能を総称した概念で、発達障害はこの認知機能に偏りがあるといわれています。
そのため、ある分野においては優れた能力を発揮するものの、違う分野は極端すぎるほど苦手という場面がみられ、その落差というのは日常生活に支障をきたすほどになります。

  • 幼少期よりコミュニケーションが苦手で集団になじめない
  • こだわりが強く臨機応変な対応ができない
  • 学校や職場で忘れ物やうっかりミスが多い
  • スケジュール管理がうまくいかず課題の提出期限や仕事の納期が守れない
  • 整理整頓が苦手でいつも探しものをしている

など、お困りの諸症状がみられる場合は一度ご相談ください。

当院は「小児・児童」と「大人」の発達障害の専門医がそれぞれ在籍しておりますので、患者さんのライフステージに合わせてシームレスな診療をおこなうことが可能です。
また、心理士による個別のカウンセリング(具体的な生活指導、疾病教育、福祉サービスとの連携の支援、など)も行なっております。
さらに、院長が責任者として慶應義塾大学病院で実施している「発達障害のショートケアプログラム」への参加もご紹介しております。
ご興味のあるかたは遠慮なくお問い合わせください。

自閉スペクトラム症(ASD)とは

自閉スペクトラム症(ASD)とは、これまでは別々に分類されていた広汎性発達障害、アスペルガー症候群、自閉症をひとつにまとめた名称になります。
割合としては男性の方が多く、海外のデータから有病率は100人に1~2人程度と報告されています。

ASDは、「人との関わりの質の障害」「社会的コミュニケーションの障害」「社会イマジネーションの障害」の3つの行動特徴で規定されます。
例えば、人の気持ちやその場の空気を自然に理解することが苦手で、友人への関心が乏しい。会話が苦手で話が続かない、冗談が理解できない、表情や目配せだけでは相手の意図することが読み取れない。予想外のことが苦手で臨機応変な対応が困難。興味の偏りがあり、ルーティンや決め事へ固執してしまう、その場のパターンを作りやすい、といった特徴があります。
なお小児の場合は、言葉が遅い(幼児期から)、目線を合わせない、人見知りをしない、相手の言葉をおうむ返しするといった特徴もみられます。
このほか、感覚過敏や感覚鈍感などの知覚の偏りが伴うこともあります。
このような特性を持つために学校や職場で本人や周囲の方が困っている場合にASDと診断されます。

治療について

ASDの特性そのものを完治させる治療法は確立していません。
治療の目的はあくまでも今より生きやすい状況を作ることです。
具体的な関わりとして、まずは自身の特性を理解し受け入れていくところから始まります。
そのうえで、家族や周囲にもその特性を十分に理解してもらう必要があります。

環境調整・生活指導

現在のストレス因になっている環境調整を行なったり、様々な社会的場面での適切な行動パターンを学ぶSST(ソーシャルスキルトレーニング)などを実施します。
具体的には学校の保健師やカウンセラー、または学校のカウンセラーや職場の産業医と連携し、主治医より合理的配慮のお願いをすることで、学業や業務の負担の軽減を図ることもあります。
視覚的な情報の理解が得意な方が多いため、メールでの連絡や見本を示したりといった視覚的な支援はとても有効です。
あいまいな表現や喩えは避け、順を追って具体的な指示を一つずつ行うことも大切です。
学童期には特別支援教育の対象になることも多いため、市区町村の教育センターへ相談を勧めるケースもあります。

薬物療法

発達特性によって併発している二次障害(不眠、不安、うつ)に対して睡眠薬や抗不安薬、抗うつ薬を使用することもあります。
また、ASDの易刺激性に対して抗精神病薬が使用されることがあります。
わが国ではリスペリドンとアリピプラゾールに保険適応があります。
あくまで環境調整や行動療法が基本であり、漫然と薬物療法が継続しないよう当院では心がけております。

注意欠如・多動性障害(ADHD)とは

注意欠如・多動性障害(ADHD)の中核症状は、不注意や多動・衝動性です。
この病態には、ドパミンやノルアドレナリンといった神経系の調節システムの異常や脳の構造および機能的な異常が関与していることが最新の研究からいわれています。
学童期の有病率は3〜7%などとされていますが、成人では有病率はすこし下がる傾向にあります。

不注意症状としては、集中することができないもしくは続かない、モノを忘れるあるいはなくす、約束事が守れないということがあります。
また多動・衝動性の症状としては、じっとしていられなくて貧乏ゆすりが目立つ、授業中も落ち着かず、おしゃべりが多い、人の話が終わる前に話し始めてしまうといったことが挙げられます。
典型的には、ADHDは学童期(12歳未満)より、不注意や多動・衝動性の問題でみとめられ、学業や友人関係、仕事上で様々な支障が起こり、何らかの介入が必要と判断された場合にADHDと診断されます。

一方で、大人になってからADHDと診断される患者さんも少なくありません。
不注意の問題により、遅刻やスケジュール管理のミス、整理整頓が苦手で大事な書類の紛失、自分の課題になかなか取りかかれず仕事の締め切りに間に合わない、口頭で指示されたことが抜けてしまう、などの困りごとが日常的にあるために仕事がうまくいかないと相談にいらっしゃるケースが増えています。

治療について

環境調整や生活指導

ADHDの症状は本人が怠けているわけでも反抗しているわけでもないこと、しつけや教育の失敗ではないことを十分理解していただく必要があります。
また親や担任教師、職場の上司などのキーパーソンへ患者さんのADHD特性についてガイダンスを行うことが優先されます。
さらにメモを取る習慣を身につける、指示は一度に一つ、できれば口頭でなくてメモやメールにする。
片付けやスケジュール管理も援助をし、その方法について具体的な説明が必要となります。
過大な負荷は能率を下げるため、負荷を調整することも大事です。
ペアレントトレーニングは保護者の子どもとの関わりを改善するプログラムで、学童のADHDへの治療的介入法として効果が確かめられています。
市区町村や保健センターへ相談することを勧める場合もあります。

薬物療法

脳内の神経伝達物質(ドパミン、ノルアドレナリン)を増やすための薬物療法として以下のようなものがあります。

  • 中枢神経刺激薬 メチルフェニデート徐放剤(コンサータ)
  • 中枢神経刺激薬 リスデキサンフェタミン(ビバンセ)
  • 非中枢神経刺激薬 アトモキセチン(ストラテラ)
  • 非中枢神経刺激薬 グアンファシン徐放剤(インチュニブ)

中枢神経刺激薬は、処方にあたってADHD適正流通管理システムへの医師および患者の登録が必要となります。
当院ではコンサータやビバンセの処方が可能です。